クリエイティヴィティの根付く街、ベイエリアの素顔

クリエイティヴィティの根付く街、ベイエリアの素顔

文:河邉未央

 

2008年、世界を襲ったニューヨーク発の未曾有の大不況は、サンフランシスコ・ベイエリア(以下、ベイエリア)の人々にとっては「チャンス」の年となった。「大量生産・大量消費こそが富の象徴で豊かな暮らしそのもの」という神話から、いち早く脱却を果たしたからだ。

 

もともとベイエリアには東海岸のカウンターカルチャーとしての誉れがあり、Do it yourself(DIY)が根付いている。必要な物を自ら作り出し、長く大切に使うのは、土地に根付いた伝統だ。リデュース、リユース、リパーパス、リサイクル(Reduce, Reuse, Repurpose, Recycle)の文化がそこにある。

 

ベイエリアはシリコンバレーを擁し、テクノロジーのメッカでもある。2007年のiPhone発売以降、大きな変化をもたらした。デバイスが小さくなったように、ビジネスの規模も小さくなり、それらが巨大な富を作り出すようになった。それはベイエリアの人々にとって、テックがより日常となり、人々の小さなイマジネーションを現実へと変える身近な手段であり良きビジネスパートナーとなった。小さな規模での大きな成功は、テクノロジー企業に留まらない。小さくスタートしたクラフト企業も、大不況から立ち直ってきたこの8年で共に大きな成長を遂げてきた。

 

ベイエリアには、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)と、全米の最高学府が存在し、学問、科学、文化、思想の各方面で先進的だ。地理的にも、ヨーロッパの影響を受けにくく、アメリカ独自のフロンティア精神が根付いている。かつて軍事技術開発の一大拠点であったベイエリアは、最先端の研究が大学からスピンオフし、民生利用の道を作り出した。地域住民がテクノロジーを当たり前のように駆使するリテラシーの高さは土地に由来する歴史に基づくものだ。ここに住む老若男女はとにもかくにもテクノロジーに明るい。

 

UCバークレーのお膝元、バークレーで発祥したカルフォルニア・クイジーンの祖であるレストラン「シェパニース」は、全米の食生活を変えたといわれる重要な存在だ。

 

シェパニースを筆頭に、ベイエリアのフードカルチャー、コーヒーカルチャーは、全米の食を再定義し、遠く離れた東海岸をも魅了している。「オーガニック」「サステナブル」「スモールビジネス」が伝統的に大切にされてきたが、トレンド化したことで、全世界へ発信され、言葉が一人歩きし始めるに至った。

 

文化の発信地であるベイエリアは、すべてが有機的な縦横の繋がりの上にあり、多様性あふれる人々が、絶妙なバランス感覚でコミュニティを築いている。人間関係はまさにオーガニックで、持続可能であることが、基本的な前提として共有されている。彼らにとって大事なことは、地に足着けた生活を築き、地元に根をはる事。個人の成長はコミュニティの成長を意味し、地域経済の中で大きな意味合いを含み始めた。

 

ベイエリアに根付く文化と有機的なコミュニティに、経済の回復が伴うことで、新たな段階を迎えようとしている。食、ライフスタイルを経て、アートへの関心の高まりと投資が拡がることは、地域の経済と文化の充実の証だ。

 

ニューヨークと違い、エスタブリッシュではない点が魅力だというベイエリアのアートシーン。何事も自由闊達、実験的であることが個性を作り出し、それを認め合う多様性がここにはある。

 

西海岸のアートシーンも有機的で、「身近な誰かのための作品」が多い。それがアメリカの次のスタンダードになっていくであろう。東京・原宿のストリートファッションがパリ・コレクションのランウェイを魅了したように、ストリート発のラグジュアリーが、今まさに席巻しようとしている。

 

ベイエリアが、世界中から憧れを抱かれるのは何も天気の良さだけではなく、理想的な価値観、人間関係、ライフスタイルを伴う経済圏を、持続させているからと言える。気候と、人の生き方と、ビジネスと、アート。すべてが最適なバランスを保っている希有な土地なのだ。そしてベイエリアの人々は、その特別を日々楽しんでいる。

 

 

河邉未央 | かわべ みお

80年生まれ。バークレー在住のフリーランスエディター。大学卒業後、アパレル会社や、テレビの製作会社を経て、ファッション誌に従事。その後、渡米し共同著者の松村太郎と「サードウェーブコーヒー読本」を出版。

 

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写真:伊藤 大介